ここでは、僕が創った小説を公開しています。
超神戦記Z ACT−II 新たな敵
解説
▼もともとは、あるアニメーションシナリオのコンテストに出品するために作られたシナリオであり、近年、それを小説にリライトしたものの続編である。
コンテストに応募した時点では、第1話のみ完成していたが、プロットは蓄えられており、かなりバラエティに富んだものになっている。この第2話『ACT−II 新たな敵』は、
完全新作である。
キャラクター紹介
●西条新司/Z
本作の主人公。城陽大学4年生。狂気の天才科学者、ドクトル渡会の手によって、細胞レベルでの調整手術を施され、超戦士Zに変身する力を得た。愛する人々を守るため戦う。
●西条涼子
新司の妹で、医者になる事を目指して佐和医科大学に進学したばかり。かなりのお兄ちゃんっ子で、やや子供じみたところもあるが、芯はしっかりしている。料理が得意。
●松原優美子
新司の高校時代の先輩で、涼子の家庭教師を務めていた事もある。大学卒業後は、国立総合科学研究所で要職についている才女。感動すると人に抱きつくという変なクセがある。
●月丘雪
新司の恋人。新司と同じ、城陽大学生で、考古学研究のサークルに属している。新司とは同い年だが、生まれは3ヶ月ほど早い。名前に似合わず、結構きつい性格をしている。
●橘悠太郎
国立総合科学研究所の所長で、あらゆる分野に精通している天才科学者。特に機械工学と医学では、学会で右に出るものはいない。また人格者であり人望も厚い。
目次
◎第1章 新司の憂鬱
第1章 新司の憂鬱
広大な宇宙空間。「そいつ」がいるその位置は、星の光でさえも届かない漆黒の闇だが、その中で光を放つ瞳が、遥か彼方にある青い星を見据えていた。その瞳の持ち主の姿が、
地球人にイメージさせる「人間」のそれとは明らかに違う。
宇宙空間は真空である。言うまでもなく、手の届く距離にいたとしても音は聞こえない。だが、そいつの、その禍々しい姿からは、大地を揺るがし、空気を激震させる唸り声が
今にも聞こえてくるようだ。
「そいつ」は、何か強い力に引き寄せられるように、――あるいは、生まれた故郷からはじき出されたかのように――、一直線に青い星へと突き進んでいた。そう、我らが
母なる星、地球へ……。
大型のバイクの割りには静かな部類に入る音を立てながら、新司は自分が在籍する大学院への道を愛用のマシンに跨って進んでいた。やがて差し掛かった交差点の信号が赤になり、
新司は停止線の寸前でバイクを停めた。フルフェイスのヘルメットのバイザー越しに目を空に向ける。雲一つない青空が広がってはいる。が、新司の心は曇っていた。
自分の体はドクトル渡会に調整手術を施されてしまい、既に普通の人間とは違う。が、理由はそんなことではない。それ自体は、さほど気にしてはいないのだ。日常生活に支障も
ない。確かに当初は戸惑ってはいたものの、何週間も経てば慣れもする。それに悩んだところで体が元に戻るわけでもない。何より、元来新司は物事を深く考えすぎないという
長所があるのだ。それに最も大きな理由が、独りではない、ということだ。
新司の父親は新司が7歳の頃、交通事故でこの世を去り、母親は新司が高校1年の頃、ガンで他界した。父親が死んだ時も、母親が死んだ時も、当然、深い悲しみに包まれた。
落ち込みもした。しかし、新司には最愛の妹、涼子がいた。涼子を守るために、早くに悲しみから立ち直った。頑張って生きてきた。だから、ドクトル渡会の下から抜け出し、
数ヶ月ぶりに帰って来ることが出来た時は、言葉では言い表せない喜びと安心を感じた。そして、姉のように慕っている高校の先輩、優美子との再会も充分に新司の心を満たして
くれた。だが、涼子はドクトル渡会と、ブラッディ・ウィッチとの戦いの中重症を負い、優美子の働く施設の病院に入院を余儀なくされた。不幸中の幸いで、涼子は順調に
回復していたが、そこで新たな問題が起きた。ついさっきの事だ。その出来事が、新司の心を曇らせていたのだった。
ドクトル渡会たちとの戦いの後、新司は優美子に全てを打ち明けた。涼子や優美子の前から姿を消した理由も、ドクトル渡会に調整手術を施され、普通の人間ではなくなってしまった
事も。
「聞いた事があるわ。昔、学会に生体兵器製造を目的としたクローン技術の必要性を訴えて、学会を追放されてしまった若き天才博士、ドクトル・ケント・渡会……」
「でもね、先輩」
新司は、静かに言葉を紡いだ。
「ヤツに感謝してるわけじゃなくて、モノは考えようだと思うんだけど……」
優美子もまた、静かに新司の言葉に耳を傾けている。その眼差しは真剣そのもの……。
「ドクトル渡会のように、良くない事を考えて何かを傷つけようとしたり、蹂躙しようとする人間が現れたとしたら、そいつらと……新しい敵とも戦う事が、この力が付いた俺に
出来る事なんじゃないかな?」
普通の人が新司のこんな言葉を聞くと、頭がどうかしてしまったんじゃないかと思うかもしれない。だが、高校生の頃からもう8年も付き合っている優美子には、そんな新司の
正義感を知っているから、頼もしく思える。
「ただ、さ」
強い意志をもって話していた新司が、少し言いよどんだ。
「他の人たち、特に涼子や雪には話さない方がいいと思うんだ。特に涼子はまだあんな容態だし、精神的な傷も癒えてないだろうし。雪もなんだかんだで心配しすぎて、こっちが
逆に申し訳なくなりそうだし」
そう言って新司は少しだけ笑った。
「新司君がそう思っているんだったら、私は何も言わないわ。けど」
「けど?」
「これからのこと、特に体のことは私に任せてもらえないかしら?」
「任せるって?」
「いくらドクトル渡会が稀代の天才科学者だと言っても、調整技術なんて完璧なものであるとは思えないわ。定期的な身体検査も必要だし、もしものアクシデントがあった場合、そう、
色んなケースが起こり得るわ。そんなとき自然治癒なんておっつかない事もあるだろうし、普通の人と同じ手法で傷を治療できるか分からないし、ね?」
「うん、わかった」
優美子の言いたい事の察しがついた新司はそう答えたものの、どこかぼかした言い方の優美子の話にどことなく違和感を感じ、2、3秒考えた。やがて新司の頭に一つの可能性が
浮かんだ。
「でも、先輩」
軽く優美子を睨みながら、やや低い声でカマを掛けてみる。
「なんだかんだもっともらしい事言って、俺を何かの実験に使おうって思ってるんじゃないだろうね」
その言葉に優美子は思わず、新司の顔から視線を外した。
「ば、馬鹿言わないでよ、そんなことあるわけないじゃない、あは、あは、あはは」
笑いながら反論しているが、どことなくバツが悪そうな表情。相変わらず新司の方を見ない。
「図星かい……」
軽い頭痛を感じながら、新司は何とか言葉を搾り出した。それだけで精一杯だった。
その数日後、というか、ついさっき起こった出来事が、今の新司の心を曇らせている原因だ。いつになく真剣な目で、思いつめた雰囲気も湛えた表情で、涼子は強く訴えた。
怒りではなく、悲しみの表情で、だ。
新司が涼子の見舞いに訪れることは日課になっている。昨日も一昨日も欠かしていない。同じように繰り返していたのだが、今日は涼子の様子が違っていた。いや、正確には
はっきりと意識を取り戻してから2日目ほど経った頃から、言いたくて言い出せないことが涼子にはあった。そのことに新司は気付いていなかったのだ。
それから更に3日経った今日、涼子は意を決して新司に聞いてみた。
「ねえ、お兄ちゃん。聞きたいことがあるの」
見た目には似つかわしない器用な手つきでリンゴの皮をむいていた新司はその手を止めずに涼子の言葉に意識を向けた。
「ン? なんだよ改まって。……ほい」
新司は皮をむき終えたリンゴを綺麗に4つに切り分けて皿に乗せ、ベッドの横にあるテーブルに置き、涼子を直視した。
「で?」
言い淀んでいる涼子を促す。涼子は重々しく口を開いたが、その言葉は新司を焦らせるに十分すぎる言葉だった。
(続く)
次回予告
ACT2 第2章 危機、絶体絶命
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